相続税コラム

贈与税を払ってでも相続税対策が期待できるケース

 贈与税の基礎控除は受贈者あたり年間110万円であり、これに収まる贈与額であれば贈与税がかからないことは皆さんご存知だと思います(相続時精算課税を選択した場合を除く)。今回はこれに関連してさらに一歩踏み込んだ相続税対策のひとつの考え方として、基礎控除の110万円を超える額の贈与をしても相続税対策として成り立つケースを参考としてご紹介します。(※本記事はあくまでひとつの考え方であり個々の状況によっては該当しない方もいることをご理解ください

 

 よく「贈与税は110万円まではかからないからそれ以下の額で贈与すればいい」との声を耳にすることがあります。たしかに贈与税等を負担せずに財産を次の代に承継できれば相続税対策として有効なのは当然です。この場合、例えば単純計算で110万円を4人の子や孫に10年贈与し続ければ4,400万円を贈与税の負担なしに贈与することが可能です。しかし現実的に相続税対策は直前に迫らなければ実行しないことの方が多いですし、贈与する相手ももっと少ないことだってあります。そもそも相続税の3年加算にかかれば贈与した財産のうち相続発生直前3年分は相続財産として相続税の計算に含めなければならず、この分の相続税対策としての効果は得られないことになります。さらに5年もしくはそれ未満の短期間で贈与をしても、110万円ずつ贈与したところで移転できる財産の額は限られてきます。

 では、110万円ずつではなく例えば520万円ずつの贈与ではどうでしょうか?

 そもそもなぜ520万円という数字が出てきたか。その理由は520万円を20歳以上の直系卑属に贈与した場合52万円の贈与税を納めればいいからです。そう、実効税率10%ちょうどで贈与できるラインが520万円までだから。こう記すと「贈与税を払うから相続税対策になっていないじゃないか」といった声があがりそうですが、実は贈与税を10%納めてでも相続税対策として有効なことがあります。それは想定相続税率が高い場合。相続税率が仮に30%の方なら10%の贈与税を納めてでも低い税率で財産を次の代に承継できることになります。冒頭の4人に10年贈与する例に当てはめて1人あたり520万円にすると総額2800万円の財産を贈与することになります。このうち贈与税率を10%として2,080万円納めたとしても相続税率30%で移転したときのことを考えれば相続税の節税効果があったことと考えることができます。(同額を相続税として計算する場合は2800万円×30%=6,240万円)

 この方法で相続税対策を行う場合に大前提として押さえておきたいのが、ご自身の想定相続税率を知ることです。そうでなければ贈与税を多少負担してでも相続税対策として成立するのか、そうでないのか、まったく見当がつかないからです。また前述のように相続発生直前3年以内の相続人への贈与はせっかく贈与しても3年加算として相続税の課税対象とされますし、今回520万円として挙げた額も20歳以上の直系卑属への贈与の場合のみでこれ以外の人への贈与は税率表が異なり実効税率10%となる額が異なるので注意が必要となります。

 ご自身の想定相続税率が何%かは税理士が相続税を試算してみれば判明することです。その上でどの程度の贈与がご自身にとって効果が期待できるのか税理士に聞いてみましょう。贈与はこの他にも「連年贈与」や「名義預金」「みなし贈与」といった一般の方には難解な落とし穴もあります。気になる方は相続税や贈与税に詳しい税理士に相談してみてはいかがでしょうか。

 

※本記事は令和21月現在の法令に基づき記載しています

 

参考:国税庁ホームページ 

タックスアンサーNo.4402 贈与税がかかる場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm

タックスアンサーNo.4402 贈与税がかかる場合Q&A 毎年贈与を受けた場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm#q1

タックスアンサーNo.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm